桜花杯決勝戦。
ハーフタイムが終わり、後半戦に臨む選手たちがばらばらとピッチに出てくる。
どうやら両チームとも交代はなさそうであり、前半と同じメンバーで行うようである。

観戦するＳＳＳメンバーとは少し離れたやはり３階席バックスタンドにその集団はいた。
黒ベースに黄色の刺繍が背中に縫い付けられたジャージ姿に身を包んだ彼女らは広島極楽バタフライ。
1部チームであるが去年初参戦したリーグでは最下位。そして2年目の今年も桜花杯1回戦負けとやはりトップの壁は厚いのか。
だがその超攻撃的（守備を考えてない）チーム作りはある意味開き直った姿勢が評価されており、また広島という土地柄か地元サポーターの応援もやたらと激しいことで知られている。



ピッチでは後半戦開始の笛が吹かれ、ＳＣＭ都がボールに触ってトップ下暁美ほむらが後方に流した。
大歓声がスタジアムを覆いつくしていく。

「さあ、後半戦はどうなるかな」
広島極楽蝶と刺繍されたジャージに身を包んだポニーテールの少女がピッチを見据えながらそう呟いた。
「かおたん、熱心だねえ」
隣でスタメシを口いっぱいに頬張りながらそう言うのはツインテールの少女。こちらもやはり広島のジャージに身を包んでいる。

「そりゃ、これからリーグ戦でも戦うわけだしねえ……てかかおたん言うな」
ポニーテールの少女はツインテールの少女の額に軽く手刀で叩く。ツインテールの少女は少し嬉しそうな顔をした。
「麻音はどう思う？」
ポニーの子はツインテールの子を挟んだ反対側に座る黒髪の少女に声をかける。くそ真面目な表情で試合を見入っていた彼女はビックリした表情で顔を上げると、答える代わりに口笛を吹いた。

「ふむふむ、相変わらずＤＭＳはサイド攻撃ばっかりみたいだねって言ってるよ」
その口笛を翻訳したツインテールの子が代わりにそう答える。

「ふむ」
ポニーの子は少し考えてからもう一度ツインテールに向き直る。

「じゃ、のりえは？」
「ぜんぜんわっかんねー」
「不合格」

びしっと指差されたツインテールは軽く狼狽した。

「あちゃーのりえちゃんまた駄目だしされちったよー」
「♪～」

真面目に観戦しているのかそうでないのかわからないルーキー3人を等分に見ながら去年武蔵野から広島に移籍した水無月琴子は大きなため息を吐いた。


「やれやれね。あの3人はあんな調子で戦力になるのかしら…」
あまりに守備を考えない広島というチームにおいて、長い間ＳＣＭでディフェンスラインを取り仕切っていた水無月琴子の加入はそれなりに守備の安定感を出すことに成功したものの、やはり３－３－４という常識外れなシステムでは限界がある。

ディフェンダーである黒髪の少女桜田麻音。
攻撃的ＭＦの塙かおる
サイドアタッカーの岡崎のりえ

いづれもユースから昇格させた3人。
そして……


「あわわ、あぶないよぽって」
バックスタンドの手すりに乗り上げながら熱心に写真を撮っている小さな少女。
選手ではなく広島専属のカメラマン沢渡楓。

このいつも一緒の4人が広島最下位脱出の起爆剤になりえるかどうか。


「ま、無理よね…」
琴子は乾いた笑いをもらした

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