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【2017/07/26 19:42 】 |
第33節 Internazionale Milano vs Associazione Sportiva Roma 15 刻んで捨てる


ハーフタイム終了、選手たちがピッチに戻ってくる。
その中、カミュ・ファルコーニがスキップするような勢いで元気に登場。スタンドは驚きに包まれた。








「カホ、ちょっといい?」
赤のジャージ、背番号9番に声をかけたのはアギー・バックだった。
代歩は長い髪を後ろにまとめながら振り返った。アギーが代歩の顔に自分の顔をつき合わせ、無表情でにらみつける。

「言っておかないといけないと思って」
「なにさ、アギー」

代歩は少し苦笑いの様相だが、アギーの表情は変わらない。

「リルハは自分の身も厭わないプレーをした。それが得点って結果にならなかったけど」
無表情のはずのアギーの瞳にふっと悲しみの色が宿る。が、瞬間的にそれが消え、怒りにも似た情熱的な色に染まっていく。

アギーの右手が伸び、代歩のユニフォームの胸倉あたりを掴んだ。

「だから、カホ。そのリルハに代わって入るんだから」
アギーの右手に力がこもる。意外に強い力で代歩の体が爪先立ちになった。


「半端なプレーなんかしたら、殺すから」



代歩が何か言おうとしたが、その前にアギーは掴んだ手を離し、踵を返す。
代歩は不機嫌な様子でユニフォームの皺を直す。と、また背後から人の気配。


「よ、清水。アギーになんか言われたのか?」
アギーとは対照的な笑顔のBucchiiに拍子抜けしたように代歩は肩を落とした。

「半端なプレーしたら殺すってさ。いやあ、ありゃマジだね。怖い怖い」
代歩は肩をすくめた。と、軽口を叩きながらも表情だけは強張っている。



茜の気負い、ジーナの覚悟、Bucchiiの覚悟、そしてカミュもそれぞれ―
リルハの想いをアギーが託す。
沢山の覚悟や想いを背負っている気がする。それに答えるべき存在。


それがFWであり、ストライカーであり、


「エース」



なのか?
それがアタシ、なのか?














「随分色々背負っちまってるみたいだな」
「まあ、色々知っちゃっってしまった……ってのが正直なところかな」
全てを見透かした風なBucchiiに代歩はあくまで軽く、受け流すような気持ちで答える。
実際のところ、それが虚勢であるのが言った本人にもわかりきっていることなのだが。
代歩は隣に並んだBucchiiに顔を向ける。痩せすぎて頬の骨が浮き出てきそうな顔。生気の無い土気色の肌。近くで見れば見るほど衰弱振りがよくわかる。

「あのさ、アンタは大丈夫なのか?」
「何のことだ?」
「とぼけんな。聞いちゃってるんだよアタシは…… 偶然だけど」

Bucchiiは下を向き、くくっと笑う。
その笑い方を見るたび聞くたびに、全てを見透かされてしまうような気になってきてあまり気分がよくない。
恐らく、わかりにくさで言えば捨井よりも彼のほうが上なのではないかー
2年間Bucchiiを見てきた彼女はそう、結論付けていた。



「ま、心配するなっていっても無駄だろうな。お前見かけによらず優しいからなー」
「馬鹿、そんなんじゃねえって」
不意に「優しい」などと言われた代歩は一気に顔を高潮させてBucchiiの視線から目をそらした。何か、心配したのが馬鹿らしくなってくる。

「もう行く」
「まあまあ、ちょっと待てよ清水」

肩を怒らせて背を向けた代歩の背にBucchiiが声をかけた。代歩は不機嫌な表情を隠そうともせずに振り返った。


「折角だから、たまにはアドバイスしてやろう。いわゆる、『ストライカーの心得』だ」
「はあ?」

代歩は口をあんぐりと開きながら、そういえば彼から直接何かを教わったことなんか無かったなと思い出していた。


「FWってのは得点を求められる商売だからな。いろんな奴らの期待や想いを背負っちまうのは仕方ないさ。そういう職業だと思って諦めろ」
Bucchiiはそこまで言ってまたくくっと笑う。

「得点ってのは希望そのものだからな。それはお前も理解しているよな?」

代歩は不承不承ながら頷いた。


「いいFWってのはそういう思いや期待を力に出来る奴のことを言うんだ。でもあんまり背負いすぎると肩が重くなっちまうだろ?」


そこでBucchiiは右手の親指を自分の胸にトンと押し当てた。


「だから、想いや期待は一旦ここに刻んでから、捨てるんだよ」
「……捨てる?」
「そう、ひとつひとつを頭に描いて心に刻んでから、『そんなの知るかっ!!アホ!!』ってな」



あほって……
今度は代歩が苦笑いする番だった。


「清水、お前なら出来る。2年間お前を見てきた俺が言うんだから間違いない。だから」




「その研ぎ澄ました牙で、インテルの奴らを蹴散らしてやれ」
そう言って、Bucchiiは右手の拳を握って代歩の眼前に突き出した。代歩はBucchiiと同じようにくくっと笑うとその拳に自分の右拳を軽く突き合わせた。
そして、Bucchiiに背を向けると駆け出した。




走りながら彼に言われたようにひとつひとつ想いを思い返していく。そして刻んでいく。



(でも、アタシはだからといってできねーことはできねーし、できる事をやるだけしかない……だな)



捨てた。

前に背番号7番が見えた。代歩は駆け寄っていきなり後ろから肩を抱いた。

「ちょ、カホっ!」
「アギー、言われたまんまってのは性に合わないから言い返しておくよ」
代歩はアギーの肩を抱いたまま笑顔を崩さずに頬を近づけた。

「リルハがどうとか、アタシには関係ない。アタシは、ただアタシのプレーをやりきるだけさ」
それを聞いたアギーはふっと息を吐くとにこりと笑顔を作って代歩に向けた。


「それでいい。信頼してる」



そして、代歩とアギーは右の拳を突き合わせた。





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【2012/03/05 06:27 】 | LEGA-CALCIO 2009-2010 | 有り難いご意見(0)
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