忍者ブログ
  • 2017.04
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31
  • 2017.06
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【2017/05/24 22:24 】 |
第33節 Internazionale Milano vs Associazione Sportiva Roma 18 組織的熟成についての考察


キッカの蹴ったロングボールはベル・メイヤーが弾き返してエステルが確保。そこから中盤でのせめぎあいとなる。
ナスターシャはふと違和感を覚える。

(アカネが、右サイド……?)

右に陣取った茜。そして茜のいた中央にはアギー・バックがついてボールを持ったエステルに向かっている。

(ラツィオ戦でもこんなポジションチェンジをしてたわね……あの時は素人感丸出しだったけど)

あれから多少の時間は経っている。その間にサイドの動きをマスターして戦術に取り込んでいたのだろうか。
努力家である茜ならば短期間でのサイド戦略の習得も可能かもしれない。
ナスターシャは中盤下がり目のポジショニングを維持しながらも茜の動向に目を光らせていた。






「……何か、始めたみたいですね。ミステルの指示ですか?」
中盤の構成が変わっている。橘恵美はその様子を見て隣に立つBucchiiを見上げた。
「いや、何も言ってないぞ」
恵美のその疑問にBucchiiは即座に答える。元々この監督は試合中に何かを指示することは殆ど無い。
選手たちの自由意志を尊重していると言えば聞こえはいいが、恵美にはただの放任、ほしくはサボりとしか考えられない。
「ま、何にせよ」
Bucchiiは目を細めてピッチを見据えたまま口を開く。

「これが試合を動かすことになれば、面白くなるかもな」







ベル・メイヤーから放たれたエリアに向けたハイボールはパオラ・ファウネルがヘッドで弾き返し、左サイドバックのサンド・フィオーリが確保した。
サンドから下がり目のジーナに繋ぎ、そこから中央アギー・バックにパスが通った。左サイド、オーラ・サネッティは既に前線に向けて加速を開始していた。左のオーラが攻めに向かったため、逆の右サイド茜はあがり控えめで、ちょうどアギーと平行線の位置にポジショニングしていた。

「エステル、ボールに!」
「ハイっ!」

ナスターシャが素早く指示を出してエステルがアギーに向かう。
インテル得意のサインプレーではあるが、守備に対して使われることはまず無い。
少し考えればわかることだが、受けに回るということは相手の動向に対し流動的に対処することが前提であり、決められた動きをするサインプレーは元来守備には適していない。
勿論守備にもある程度のセオリーや決め事があるのも事実ではあるが、サインプレーそのものとは方向性がまるで違う。
ただナスターシャの指示はここでも十分生きており、やはり「世界一の司令塔」の名を受けるに恥じないプレーがそこにはあった。


アギーはいつもの無表情で近づくエステルを見据えたままノールックで右の茜に鋭いパスを出す。そして出した瞬間エステルを引き連れて前線にダッシュ。ポジション的には茜を見るのがエステルの役目だったということでナスターシャが代わりに茜に詰め寄った。中央フィアッカが下がってナスターシャのポジションを埋める動きを始め、ベル・メイヤーも中央に絞り始める。



「インテルの選手たちは本当によく訓練されてるわね」
メインスタンドで頬杖を突いたままの姿勢で藤崎詩織が呟く。
「そうね。あの流動的なポジションチェンジといい、攻撃の時のサインプレーといい、生半可な練習じゃ身につかない動きですね」
それまであまり口を開かなかった佐野倉恵壬がそ答える。
恵壬はスペインの強豪ヴァレンシアに所属し、一昨年はリーグ制覇にチャンピオンズリーグも制覇しているが今年はリーグ4位と後退。CLもベスト8でローマに破れて無冠となっている。
ヴァレンシアといえばそのメンバーの殆どが各国の代表選手というまさに「女子版銀河系軍団」と呼ぶにふさわしいチームではあるが、それだけ個の優れた選手揃いのチームでも勝てないということがサッカーという競技にはままある。
以前にも触れたことがあるが、優れた個が組織的に熟成されることが近代サッカーにおいて目標とされるひとつの到達点であるが、優れた個というのはそれだけひとりひとりが個性的であり、それをひとつの枠にはめ込むというのは至難の業であるのは言わずともわかることだろう。
ヴァレンシアは佐野倉を筆頭に優れたテクニシャン揃いのチームカラーが故、ともすれば個人主義に走りがちになる部分が無いとは言えなく、ただそれが全て間違っているかと言われればそれも違うのは一昨年の栄光を見れば明らかであるが、今季においてはその良い部分が封殺されたからこその不振とも言えなくは無い。

前回のダイヤモンドカップの決勝戦。個人主義のアメリカ対組織主義のイタリアといういわゆる異なる主義の対戦という趣だったが、結果的には組織主義のイタリアが勝利。この結果全てを組織主義である近代サッカーの正しさであるという解釈はやや乱暴ではあるが、ひとつの回答を示したのは事実である。

インテルはその近代サッカーである組織的熟成を最も突き進めたチームである。
ナスターシャ・シルベストリという圧倒的なリーダーを中心に若き選手にベテランの選手も全て取りまとめて組織的に熟成を重ねる。
それがあの「サインプレー」であり、流動的なポジションチェンジなど優れた個が組織としての約束事をきっちりこなした上でチーム全員で目標をクリアしていく。
個が持つ才能も技術も否定せず、全てを開放した上で組織としてそれを戦術に組み込んでいく。
それがインテルというチームであり、ナスターシャ・シルベストリという近代サッカーの申し子といえる存在の全てである。


茜はアギーからのパスをワンタッチで中央に強く折り返した。
ナスターシャの脇を抜けたボールは前線バイタルエリアに陣取ったカミュ・ファルコーニの足元へ。
パスを出した茜は反転、右サイドを駆け上がりはじめた。


(じゃ、見せてよカミュ)
(任せな、アカネ)


ではそのインテルに対するローマはどうなのだろうか。
組織的にもある程度の熟成を見せているが個の役割がばらばらであるが故ある意味インテルとは違う向きでの成長を見せているというのが印象的ではある。
攻撃的選手と守備的選手を明確に分けるこのチームは、組織を少人数で切り裂く圧倒的な才能が必要であり、そしてそれを持ってる数少ないチームであろう。


「ファンタジスタ」


その才能はローマを語る上でなくてはならないものであるし、そして必要不可欠であると認識される。
近代サッカーという見地から見れば、個の才能に頼りきる不完全なチームという見方もあるだろう。
だが、そんなチームが激戦であるセリエAを戦い抜いてスクデットまでと一歩という位置にいるのはどういうことだろう。
それはつまり、ローマは不完全ではないということだ。
「ファンタジスタ」という個を生かしきるためにあえて組織の熟成を偏らせている。
それがローマというチームであり、近代サッカーとは違う、特異な成長過程を持つチームなのではなかろうか。



もし、この試合でローマが勝利するならば、近代サッカー至上主義の考え方そのものが根本的に覆される危険も孕んでいる。
それはサッカーの歴史を塗り替え、全てを壊して再生を目指す路になりうるのではなかろうか


この試合は、未来を見据えた覇権争いの試金石なのだ―





PR
【2012/03/16 23:12 】 | LEGA-CALCIO 2009-2010 | 有り難いご意見(0)
<<第33節 Internazionale Milano vs Associazione Sportiva Roma 19 置かれたボール | ホーム | 第33節 Internazionale Milano vs Associazione Sportiva Roma 17 ミラノの戦略家>>
有り難いご意見
貴重なご意見の投稿














<<前ページ | ホーム | 次ページ>>