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【2017/07/26 19:42 】 |
第33節 Internazionale Milano vs Associazione Sportiva Roma 29 FANTASISTA


その少女はただ、無為に時を止めていたわけではなかった。

気を抜けばあっという間に崩れ落ちそうな激痛の中、少女は考えていた。
満身創痍の自分に何が出来るのかを考えていた。

頭の大部分を占めていた痛みで、まるで考えはまとまらなかったのだが、そうして時を止めていたことが無駄にはならなかったのは幸運なのか?それとも必然なのか?


何が出来る?
何をすればいいの?




送られた信頼を受けたとき、その全ての疑問が氷解した。






カーリー・コンティ、フィアッカ・マルグリット、そしてナスターシャ・シルベストリの3人に囲まれながら森下茜が出したパスは両サイド走り出したアギー・バック、オーラ・サネッティ。そして最前線でセレニーナ・ドミンゲスとポジション争いをする清水代歩を狙ったものではなかった。

そのボールの軌道はセンターサークル右端辺りでそれまで時を止めていた少女、カミュ・ファルコーニに出されていた。

下を向いたままのカミュの足元に転がったボール。
カミュは下を向いたままボールも見ずにひょいと左足を出してトラップした。



(あ、ボールきた……)
そのときカミュの頭に浮かんだのは、ただそれだけだった。
そしてそのあとにわきあがる疑問。

何故?
どうして?


それは自分が今現在右足首の痛みにあえぐだけの存在。
ピッチの中で無視されたままの、置物以上の存在価値のなかった自分。
それをわかっているから、湧き上がった疑問。


なら何故交代しなかったの?
何故恥を晒し続けてまでピッチに残っていたの?


カミュがボールを受けたのを見て、一番近くのフィーナ・ファム・アーシュライトがチェックに向かう。カミュは下を向いたまま留まる。


このままで終われない。
まだ何か出来るはず。
そう思っていたからだ。

でも実際はどうだ。
激痛は全ての思考を奪い、全ての運動を拒否している。
進むための一歩を踏み出すことさえ困難にさせる激痛。何か出来る?何も出来るはずなんかないはずだ。


カミュは憔悴し切った顔をゆっくり上げてボールが出された方向に目を向ける。
ナスターシャ、フィアッカ、カーリーに潰されて倒れこんだ茜の顔が視界に飛び込んだ。


その表情は穏やかで、凛として、そして優しげな微笑。



「私はあなたをあてにするよ?」













その微笑が全てを語っていた。
その柔らかく左足に収まったボールも、同じように優しく語り掛けていた。


何が出来る?
何をすればいいの?

簡単じゃないか。
アタシはサッカー選手だ。
サッカーしか出来ないじゃないか。



フィーナが余裕の笑みを見せながらカミュの足元に足を出した。
その瞬間、フィーナの目の前からカミュの姿がかき消えた。

驚いたように顔を上げたフィーナ。
カミュ・ファルコーニは2メートルほどボールと共に跳躍し、フィーナのタックルをかわしていたのだ。



激痛に苛まれる右足。それは変わることもなく彼女の心を蝕んでいる。
でも、

(もう十分休んだ! これがアタシのラストプレーだ!!)


カミュは一瞬、笑みを浮かべると狼狽するフィーナにドリブルで突っ込んだ。慌てながらもフィーナがその勝負に応じる。
上体を右に傾け、フィーナが一瞬首を向けた瞬間逆に弾ける。その尋常ではないスピードでフィーナはあっという間にかわされた。
カミュは顔を正面に向けた。その視線の先にはイリノア・メッサーラが守るインテルゴールが見えた。
躊躇惜しむことなく突っ込む。左サイドから危険を察知したミア・クレメンティスが躍り出るが右にターンしながら抜く。
次はカレン・アダミッチ。
エリア手前でカミュの正面に出たカレンに対しカミュは体を沈めてボールを右足でまたいでシザース。その1回で右足アウトサイドでボールを引っ掛けて右に出しながら左に体を進める。カレンが狼狽しながらボールの行方を目で追った瞬間体を起こして背中を向けながら右に弾いたボールを左足伸ばして触って強引に引き戻した。
そのまま反転しながらカレンの左を抜いた。そしてペナルティ・エリアに侵入する。

尋常ではない危機を察したセレニーナ・ドミンゲスは代歩を振り切ってカミュに向かおうとしたが今度は代歩の背中がその行動をブロック。
代歩とカミュの視線が一瞬絡み合い、ふたりは同時に微笑んだ。


そしてゴールに視線を向けた瞬間、野獣のような雄叫びと共にイリノア・メッサーラの巨体が芝を滑りながら突っ込んできた。カミュは左足にボールを引っ掛けたまま跳躍。
大きく跳ね上がってイリノアが伸ばした腕、足、体を全て飛び越えて着地した。


もう目の前にはゴールだけ。
白いネットに包まれたゴールしか見えない。
カミュは左足インサイドでちょんとボールをつつき、ゆったりとしたボールはぱさりという音も無いままネットに絡みついた。


そして、カミュは左腕を大きく、天に向かって掲げた。
ゴールを告げる笛の音と共に、悲鳴のような歓声がスタジアムを、
カミュ・ファルコーニを包み込んだ。


後半34分のことだった。
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【2012/05/18 04:09 】 | LEGA-CALCIO 2009-2010 | 有り難いご意見(0)
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