肩と肩がぶつかる。
ナスターシャは完全に予測してそれに備えていたがそれでも上半身が後ろに仰け反りそうな感覚。必死に腹筋と背筋を張って押し留める。
茜はぶつかった勢いそのままに左足を前に出して足元のボールに伸ばすが勢いを押し留めながらのナスターシャが右足で器用にボールを動かして触れさせない。茜はさらに踏み込むような体勢をとった。
が、その力が前に抜ける。
ナスターシャは体を入れ替えながら反転し、茜の背中側に回り込んだ。
茜も負けていない。その瞬間腰の筋肉を最高潮にパンプアップさせて急停止から急反転。ナスターシャの前に躍り出る。
腰の、そしてふくらはぎを中心とした両足の筋肉が軋みの悲鳴を上げる。
ナスターシャは驚愕に表情を歪めながらも更に逆側に反転動作。ボールを股下に置いたままくるりと反転しながら左足の踵でボールを弾いた。
変形のマルセイユ・ルーレットとでも言えばいいのか。
茜は振られながらも腰を落として倒れこむように足を投げ出した。
弾かれたボールに茜の足先が触れた。弾かれたボールが茜の前方に転がった瞬間、茜は右手を地面に叩きつけて強引に体を起こして跳ねた。
そしてナスターシャの脇を駆け抜けてそのボールを確保、前に向かってドリブルを開始した。
ローマは守備ブロックを明確に分けた。
それは、カウンターのスピードと精度を増すためでもある。
茜がボールを奪った瞬間、左右のMFであるアギー・バックとオーラ・サネッティは同時に走り出していた。
バイタルエリアを守るフィーナ・ファム・アーシュライトは左右を見て両サイドバックがチェックに向かっているのを確認してから猛然とこちらに向かう茜に対峙。自分も距離を詰めた。
茜の後方には追いすがるナスターシャの姿も見え、上手く時間を稼げば挟み撃ちにも出来る。
が、茜はフィーナが到着する前に右足を振って右サイドを走るアギー・バックにロビングのパスを送った。そして茜はフィーナの脇を駆け抜ける。フィーナは慌ててアギーと茜の間のパスコースを切るように併走する。
茜から送られた緩い軌道のパス。走りながら右足でトラップ。
だが目の前には既にバニア・カモネージの姿が。
迷ってる暇は無い。
アギーは右足を大きく振ってボールを蹴った。
そのボールは大きく宙を跳ねて走りこむ茜の頭上を飛び越えて逆サイド、オーラ・サネッティの足元に飛んでいった。
快足オーラは間髪いれずに出されたサイドチェンジのボールも悠々追い付く。マークについていたミア・クレメンティスはそのスピードにほぼ振り切られていた。
が、オーラの前方にカレン・アダミッチがゴールとのコースを切る形でポジション修正していたのが見えた。
オーラはニコリと笑ってアギーから送られたサイドチェンジのパスをダイレクトで右に叩いた。
そのパスはピッチをバウンドしながら走りこむ茜の足元にきっちり納まった。
そして茜が前を向いた。
カレンがオーラを警戒してポジションを動いたことで、ずれが生じている。
後ろを追いすがるナスターシャには見えた。
今にもDFライン最前線でセレニーナ・ドミンゲスをかわそうとしている清水代歩。
そしてそこに至るゴールの道筋、
黄金の道を
茜の右足がそのルートどおりに速いスルーパスを送る。
ナスターシャは茜の右足が振り切られた瞬間、頭を抱えてその場で膝を付いた。
スルーパスは代歩にわたり、代歩は鋭いシュートを放った。
だが、シュートは右ゴールポストの僅か外側掠めていった。
後半39分。
ローマが千載一遇のチャンスを逃した瞬間だった
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http://seriea.kagome-kagome.com/Entry/154/第33節 Internazionale Milano vs Associazione Sportiva Roma 32 黄金の道