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【2017/05/23 02:18 】 |
彼の誇り


あの激動の試合から1週間後。
ASローマはホームスタジアムであるオリンピコでシエナとのマッチ。
負傷のカミュ・ファルコーニとリルハ・イルハはベンチスタートだが、他のメンバーは主力をそのままぶつけている。

試合後半35分を回り2-0とローマのリード。やはりスクデットがかかるローマと既にB降格が決定しているシエナとではモチベーションからして違うのか。


テクニカルエリアからベンチに戻った橘恵美がベンチで申し訳なさそうに座るスーツ姿の女性に声をかけた。

「ミステル。交代いいですか?」
「え、ああ、はい、どうぞ……」
その女性、ローマGMの一人娘であるカタリーナ・センシは怯えた様子で何度も首を縦に振る。
恵美は軽くため息を吐くとベンチの選手のひとりを呼んだ。


「いいのか?エミ。アタシ出ちゃっても」
「ええ、やっぱり最後はピッチにあなたがいないとね」
カミュ・ファルコーニは背番号10番のジャージに身を包み、タッチライン際に進み出る。

「カミュ、でも出るからにはちゃんと結果を」
「わかってるってー」

ブランシュ・ドミと交代したカミュは楽しそうにピッチに躍り出る。
そしてその数分後、鮮やかなスルーパスを代歩に通して3点目を演出した。



そしてタイムアップ―


この日、ASローマはA昇格3年目にして初のスクデットを手にした










首都ローマに歓喜が吹きぬけた次の日。
郊外の道路際で店を開いている花屋にひとりの女性客が訪れた。店主である恰幅の良い女性はその珍しいお客を一目見て目を輝かした。

「あの、お花をお願いします……」
「あらまあ、昨日観てたわよ。素晴らしい試合だったわねえ」

握手を求められた森下茜は素直に応じながら店内にある花を物色する。

「お見舞いの、お花なんですけど…」
「そうなの?じゃあそれよりこっちのほうがいいわね。いま揃えてあげるから待っててね。それとお代はいらないからその代わり写真とサインをお願いできるかしら……」













茜はその郊外にある病院に足を踏み入れる。
怪我と戦い続けてもいた茜も色々な病院にお世話になっているがこの簡素な病院にいくのは初めてだった。
白い壁と薬品の匂いに包まれた院内。受付で場所を聞いた茜はまっすぐ外科病棟に向かう。
目的の部屋の前に付くとノックを2回し、扉を開けた。

「こんにちはカントク。具合はいかがですか?」
「おお、森下か」
ベットで上半身だけ起こしていたローマ前監督Bucchiiは在任中には殆ど見せなかった柔らかい微笑みを茜に見せた。


「手術も無事成功だ。まだ退院にはしばらくかかるがもう問題ない」
「良かった。あの時は本当に心配したんですからね」

あの時、というのはインテル戦のあとのことだ。
Bucchiiは試合後倒れ、病院に緊急搬送されてそのまま入院となっていた。
茜はその時のことを怒るでもなくただ淡々と話しながら自分の持ってきた花を花瓶に活けていた。
茜はそのインテル戦の後毎日のようにこの病院に顔を出し、Bucchiiの身の回りの世話をしていた。

Bucchiiはベッドの隣の棚におかれた小さなテレビ画面を見据えている。画面の中では昨日ローマがスクデットを決め、歓喜の輪を作っている場面が繰り返し流されていた。

「そのテレビは?」
「ああ、昨日の朝パオラが持ってきてくれてな。『ちゃんとアタシたちがスクデット獲る瞬間を観ろ!』ってさ」
「そうなんだ。ああ見えてパオラは優しいからね」

部屋の窓を全開に開け、白いカーテンが風にはためいている。柔らかい風はそのまま二人を包んでいた。

「それにしても本当に獲るとはな。日本人初のスクデットだな」
「そんな……カントクだって」
茜にそう返されたBucchiiは自嘲気味に笑う。
「おいおい、俺は最終節前に解任だぜ。残念だがな」
「そんな……でもみんなわかってますよ。優勝できたのはカントクの……」
そこまで話したところでBucchiiの手が茜の言葉を制する。

「俺は何もしてないぜ。勝ったのは間違いなくお前たちの力だ。それはちゃんと誇れ」

そう言われて茜は悔しそうな表情をしたまま下を向いて押し黙る。Bucchiiはもうひとつ笑うと更に上体を起こして茜の頭を乱暴に撫で付けた。茜はビックリした表情で顔をあげた。


「本当に、お前は、お前たちは凄いんだぜ。よく勝てたよな」
「カントク……」
茜がBucchiiを見つめたまま言葉に詰まる。Bucchiiはひとつ頷く。

「お前たちは、俺の誇りだよ」



それを言われた瞬間、茜の涙腺が決壊した。
両の瞳から涙が溢れ、拭っても拭ってもあとから涙が頬をつたう。
子供のようにしゃくりあげながら、それでも茜は言葉を紡ごうとする。

「ずっと……認められたかった……えぐっ、…カントクに褒めてもらいたかった……ひんっ」
「ああ、認めてるよ森下。お前は最高の選手だよ」

「もっと、一緒に……もっと…色んなことを……教えて…ほしかったのに…」
「もう俺が教えることなんかねえよ。森下、もうお前は一人でも大丈夫だ」

「ふえ、ふえええええんんん……」
茜がゆっくりとBucchiiの胸に体を預ける。Bucchiiは何度も頷きながらその頭を撫でていた。












「おい、いつになったらミステルに会えるんだよ?」
部屋の前、カミュ・ファルコーニが代歩の耳元で小さな声で呟く。ドアの隙間から中の様子を窺っていた代歩は諦めるようにため息をひとつ吐くと後ろで憤慨しているカミュの肩を抱いて後ろを向かせた。

「お、おいサダコ……」
「今日はちょっと都合が悪そうだ。祝勝会まであんま時間ねえし行こうぜ」
「お、おいふざけんなよ。ミステルと遊ぶんだって……」
「あ、そうだたまにはアタシが奢ってやるぞチビ。近くに美味いジェラート屋があるんだよ」
「チビって言うなサダコ。でも本当に美味いんだろうな。アタシはジェラートにはうるさいぞ」
「お前もいい加減サダコはやめろって……」

カミュの肩を抱きながら部屋から離れる代歩。一度だけ振り返って代歩は微笑みを向けた。
そして右手でぴっと敬礼の真似事をし、また前を向いた。







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