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【2017/04/24 00:54 】 |
月夜に誓う


「あけぼのフレンドリーマッチ」第2戦対メキシコ戦、日本女子代表は前のカナダ戦からオーダーを大きく変えて臨んだ。

GK 二階堂 望
CB 新堂 環
CB 二見 瑛理子
CB 来須 魅那美
DMF 里仲 なるみ
DMF 千葉 ちひろ
LWB 森井 夏穂
RWB 主人 光
OMF 難波 花梨
FW 佐倉 杏子
FW 鬼澤 麗華

カナダよりもランキングも上、そして実力も当然上のメキシコであり、試合開始から猛攻に曝されるがDFリーダーの二見を中心に凌ぐ。
前半も終わりそうな43分に中盤でボールを奪った里仲から左の森井。左サイド突破した森井のクロスを佐倉飛び込むがGKに弾かれる。が、詰めた千葉が押し込んで先制。
後半メキシコにPKを献上して同点に追いつかれたがその後難波のフリーキックが直接決まって逆転。2-1でこのフレンドリーマッチ2連勝を飾った。


宿舎としてあてがわれた都内のホテル。
中庭は結婚式などでも使えるように自然いっぱいに見せる景観を整えている。
少し暑くなり始める時期、本田飛鳥はジャージ姿で中庭のベンチに腰掛けて夜空を仰いだ。

ハーフムーン

月を縦に割ったような半月。
黒く染め上がった夜空にぼうっと浮かび上がるシルエット。時折遠くから聞こえる車のクラクションの音に我に返るが、なんとなく吸い込まれそうな空。


「こっちはやっぱ、星が見えないな」
「可莉奈」
飛鳥が振り返ると長いポニーテールをおろした豊田可莉奈がバスタオルを首に巻いてスポーツドリンクを手に立っていた。
飛鳥が微笑むと可莉奈は2本持っていたペットボトルのうち1本を飛鳥に渡しながら彼女の隣に腰を下ろした。


少しの時間、ふたりは無言で夜空を眺める。
出会った頃は子供だったふたり
いつしかふたりでサッカーを始め、そして別れ、

再開したときはピッチの上だった。
戦い、そして代表では仲間として汗を流し、

そして、また……




「ねえ、ドイツはいつ?」
「夏、かな……」
「スゴイね、可莉奈は」
「飛鳥も凄いよ。キャプテンだろ?」

空を見上げながら目を合わせずにふたりは言葉を交わし合う。

「すごくないよ。私は結局、外に出るのが怖かっただけ」

飛鳥はそう言ってから可莉奈に目を向けて自嘲気味に微笑んだ。
LCC契約選手ということも手伝ってか、飛鳥にも海外からのオファーはあった。
ただ、その全てを飛鳥は断っていた。
キャプテンだから、という理由で。


「そか」
可莉奈は短く呟くと空を見上げたまま大きく背伸び。そして飛鳥に向き直るとにこりと微笑んだ。


「じゃ、ボクが飛鳥の分までやってくるよ。ボクたちの世代だって結構やれるんだって証明しないとな」
「そうだね、おんなじ『うどん部』だしね」
「おいおい、勘弁しろよ」

可莉奈と飛鳥は肩をすくめて笑いあった。


と、その時二人の背後から忍び寄る影。
飛鳥、可莉奈が気がついた瞬間、その影はふたりに覆いかぶさって肩を等しく抱いた。

「なーにたそがれちゃってるのさー」

小さい体を目一杯伸ばし、童のような笑顔を見せたのは里仲なるみ。
カナダ、メキシコ両戦でスタメンフル出場した彼女だったが、その疲れは全く見せていない。いや、全く疲れていないのかもしれない(笑)

優勝したアジアスーパーカップでは宮藤の控えに甘んじていた彼女だったが今シーズンは桜花杯、そして記念杯リーグ戦でも好調を維持し続けている。
そしてこのフレンドリーマッチでも2試合フル出場とハーレン監督の信頼を勝ち得ている。
間断ない運動量はテクニック系の選手の多いTMリーグにおいて、貴重な存在感を出しているのもその理由だろう。


「で、なんの話してたのー?」
ころころと笑顔を振りまきながらなるみは飛鳥と可莉奈を等分に見比べる。可莉奈は額に縦線を入れていたが、飛鳥は楽しそうに笑っている。
「可莉奈、今度ドイツに行くからね、その話だよ」
「そうだ!」
飛鳥の返答になるみはぽんと手を叩いて頷いた。

「そうだよ!遂に『うどん部』が海外進出じゃねーかっ!」
「別にうどんを広めるために行くんじゃねーよ」
可莉奈が冷静に突っ込みを入れるがスイッチの入ったなるみは止まらない。

「そう!そうだよ!我がうどん部も日本だけじゃなく、海外に目を向けないとダメだ。この日本を代表する国民的日本食が世界に認められる日ももう遠いことじゃないんだよ可莉奈!くわー忙しくなってきた……」
「だめだコイツは……」
「あは、あははは……」


と、ひとしきり盛り上がってからなるみを加えた3人はまた夜空に目を向ける。
雲一つない夜空に月がぼおっと浮かび、目を凝らせば星の瞬きも見えるが都会の空気ではこれが限界なのかもしれない。


「でも、可莉奈もドイツか。こりゃあうかうかしてらんないね」
「そうなの?」
「そうだよ飛鳥。このまま可莉奈がうどん部の部員を向こうで増やしちゃったらワタシの部長の地位も危なくなっちゃう」
「だから、うどん部のために行くんじゃないって」
「あははー冗談だよ冗談、でもさー」

なるみは笑顔のまま空を見上げて大きく息を吐いた。

「代表もさ、今は出番あるからいいけど予選始まったらどうなるかわかんないよ。私のところには芳佳がいるし、飛鳥は今のまんまじゃ森下さんの控えじゃん」

基本的に海外選手を起用する傾向の強いハーレン監督としては、いまのメンバーは控えの選手の選定が主であろうという憶測はこの代表内でも囁かれている。

「ボクだってそうだよ。次の予選には咲野さんが復帰するらしいし、そうなるとボクが控えになる事は十分考えられる」

可莉奈は神妙な顔で頷き、同意を得たなるみは顔をほころばせている。
飛鳥も同じことは考えていた。

「何になりたいんだ?」
ハーレン監督から言われたその言葉がまた飛鳥の脳裏に浮かび上がる。
今のままでは森下茜を超えることは敵わない。
もしかしたらその言葉の答えを見つけることが、茜を越える第一歩なのかもしれないと漠然と考えている。




「よっし!!」
不意になるみが大きな声を出して膝を叩いてから立ち上がった。そしてベンチで唖然とするふたりに向き直った。

「私も行くよ。海外武者修行にっ!!」
「はあ??」
「な、なるちゃん……」


これは完全なオフレコ情報であるのだが、なるみにも海外からのオファーが数件届いている。
特に熱心に獲得を目指しているのがスペインリーガ・エスパニョーラのレアル・サラゴサ。
攻撃一辺倒のスペインリーグにおいて、守備に強みを見せる選手というのは喉から手が出るほど欲しい人材であり、身長に難のあるなるみだったが守備的ポジションをオールラウンダーにこなせるという部分はその短所を十分に補えるという判断らしかった。



「……マジか?」
「うん、マジ。なるちゃんはまだ保留にしてたんだけどね」

目の前で両手をぶんぶん振り回して気合を入れているなるみを見ながら可莉奈と飛鳥はひそひそと話している。

「いいかいふたりともっ!私の一番の夢は里仲製麺所を継いで世界に轟くうどん屋にすることなんだけど、」
「世界に轟く、ねえ」
「あはは、なるちゃんらしいね」

ふたりの苦笑を見て顔を赤らめたなるみだったが、もう一度深呼吸して右手を空に向かって大きく掲げた。

「その前に!ダイヤモンドカップのピッチに立つために全力を尽くすよ!」



素直な宣言。
なるみの純朴で素直な言葉は不意打ちで周りの心を打つ。
気がついたとき,可莉奈と飛鳥は同時にベンチから立ち上がってなるみに近寄った。
そして、誰からともなく右手を出し、その手を重ねた。

「やるぞっ!」
「やるか」
「うん、やろうっ!」

この日、本田飛鳥に豊田可莉奈、そして里仲なるみは月夜に誓った。
月は微笑むようにその姿を淡い光で包み込んでいた。









「可莉奈、うどん部部長は渡さないからなっ!」
「だからいらねえって」




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【2013/04/22 13:03 】 | Japanese representative | 有り難いご意見(0)
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