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【2017/07/26 19:42 】 |
生き残りの所業


交代ボードを見たちとせは少し訝しんだような顔をしたがすぐに気を取り直し、川田コーチとほむらのいるところに歩いていく。ハイタッチで交代。そして松原聖の元に向かってくるちとせは笑顔だった。

だが、松原聖の顔は笑顔ではなかった。


後にその場面を見ていた神条芹華はそのときのことを振り返る。


「アタシもあの監督とは付き合い長かったけど、あれだけ怒っているのは見たことが無かったよ。逆鱗に触れたんだよねきっと」





ほむらはピッチに入るとまっすぐに本田飛鳥の元に向かった。飛鳥はペナルティ・スポットにボールをセットしているところだった。

「あの、キャプテン」
「なに?」

ほむらは飛鳥の耳元で囁く。飛鳥は一瞬驚いた顔をしてベンチを凝視し、そしてほむらに向かって頷いた。


飛鳥がPKを蹴った。
だがボールはクロスバーを越えていってしまった。飛鳥は少し微笑みながら首を傾げた。


「あちゃ、外してもうたか…」
ちとせは振り返りながら苦笑した。
「まあね、私が外すように指示したからね」
気がつくとちとせの目の前には松原聖が腕を組み、仁王立ちしてちとせを待ち構えていた。


「何や、今のプレーに不満でもあるんで?」
「ええ、おおありよ。不満だらけよ」
聖はちとせを睨みつける。ちとせは口元に微笑を浮かべ、処置なしといった感じで手を広げる。

「あんなあ、今日の審判は明らかにど素人や。利用しない手はないやろ?アメリカじゃこんなの日常茶飯事やし…」
「ここはアメリカじゃないわ」
聖はちとせの言葉を途中で切った。ちとせの顔があっという間に不機嫌なものになる。

「あなた、D1ストレンジスを解雇されたあとD2、そしてD3をカテゴリを下げてでもかの地で挑戦し続けた。それは評価してるわ、でもね」

言葉を切る

「向こうの黒人、白人に比べて明らかにスピードやフィジカル、そしてテクニックに劣っていたあなたの生き残る道はそう多くない。いわゆる『倒され屋』、それに『マリーシア』使いとしてくらいしか」


ちとせは2部、3部とカテゴリーを下げつつギャラクシーにしがみつき続けていた。
そこでわかったことは、「体の小さな自分にしかできない事」をすることだった。
例えばエリア内で相手の大型選手のタックルで倒れた時、それを見ていた主審の印象は、

「大きな選手に小さな選手が倒された」

という印象。大型選手同士に比べて笛が吹かれやすい。
チームでの役割が、「PKを獲ってくる」や、「フリーキックを取ってくる」。若しくは「相手DFを退場に追い込む」という使われ方になってくる。
ちとせはそれを受け入れ、そして倒される術を磨き、マリーシアの技術を高めていった。
それがアメリカという地でフィジカル未向上という特異なパターン。



「それがどないしたんや」
ちとせの表情に既に最初の微笑は無い。見透かされ逆切れともいえる様に憤怒の表情に変化していた。
「マリーシアだろうと、なんだろうとサッカーや、これもサッカーやっ!」

気がつけばちとせは大声で怒鳴り散らしていた。
聖はそれを見ながら聞きながら、怒りの表情を沈めて冷静な無表情に変化していく。


「そうね、あなたの言うとおり、どれもサッカーよ。でもね」




「私はだいっ嫌いなのよ。ただ、それだけよ」
「な………」

正しい、正しくないという事ではない。ただ一方的に感情で切り捨てられたちとせに言い返す術はもうなかった。言葉を出す事もできずただ振り上げた拳を力なく降ろすしかなかった。


「着替えなさい相沢さん。もう出番はないわよ」
「くっ…」

ちとせは下を向き、肩を震わせながら施設更衣室に向かう。その後姿を神条芹華が追った。



芹華が更衣室に入るとちとせは激高してロッカーを足蹴にしているところだった。
「くそがっ!くそがっ!」
何度も、何度もちとせはやり場のない怒りをロッカーの扉に叩きつけている。芹華は修理代金結構いくんだろうなと思いながらもその様子をぼんやり見ていた。
やがてちとせが芹華の姿に気がつくと、舌打ちをして檜のベンチに腰を下ろした。


「試合見とったほうがええんちゃうか?ウチに付き合ってると試合出れんよ」
「ああ、いいんだ。実は昨日アレが始まっちまってね」

「アレ」という言葉を聞いたちとせは何度か頷いてからふふっと含み笑い。芹華も笑いながらちとせの隣に腰を下ろした。

「コントロールしてたつもりだったんだが、失敗したみたいだな。これでスタメン競争出遅れだ」
「出遅れならええやん。ウチは出走停止や」

ちとせ、芹華は軽く笑いあう。だがそのあとが続かない。
5分ほど経っただろうか、沈黙に耐え切れなくなった芹華はちとせの肩に手を置こうと右手をあげた。
だがその瞬間、ちとせの肩が大きく震えだした。


「…ウチは詩織みたいなテクニックも、モリシみたいな才能もなかったんや。だからああするしか、生き残る道はなかったんや…」

下を向き、震える体。水滴が頬を濡らす。
芹華は右手を震えるちとせの肩に置いた。


「まだ、出走停止じゃないと思うよ」
そう言って芹華は立ち上がる。震える肩に背を向ける。


「アタシたちは、『最強の小娘たち』だったんだ。まだ終わってなんかない」





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【2011/08/26 19:11 】 | Others League | 有り難いご意見(0) | トラックバック(0)
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