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【2017/10/23 13:29 】 |
なにもやってない、なにも持ち帰っていない


千葉では決起会、そして監督・コーチ不在のチームは久しぶりのオフ。
選手たちはたまの休みを謳歌すべく街へ繰り出したりと様々だがクラブハウスに残っているものはいなかった。
ただひとりを除いて






彼女はクラブハウス2階のトレーニングルームの扉を開けた。
SCMクラブハウスは3階建てで1階はロビーに事務課、用具室など。3階は選手寮となっている。
2階はシャワールームにロッカー、そして小さなトレーニングルームが完備されている。

入り口の上に非常口と書かれた緑色のライトだけが薄暗く辺りを照らす。夕方になり外の光も室内には殆ど入らなくなっている。
彼女はドアのすぐ近くにある照明に手を掛ける。半分ほど照明で室内を照らすとトレーニングマシンの間を歩く。
ベンチに座り右手に持っていたファイルを開いた。

英語で書かれたその中身は、彼女だけのために作られたトレーニングメニューだった。
彼女―相沢ちとせはSCMからアメリカギャラクシーリーグディビジョン1のNYストレンジスに期限付き移籍を果たした。それが3年前。
その後半年でNYストレンジスを解雇になった彼女は新天地を求めて2部のチームへ、そして3部のチームへと移籍を続けた。彼女自身がアメリカに強いこだわりを持っていたというのもあるが、本当のことを言えばまともに結果も残せないで日本に逃げ帰るのは彼女のプライドが許さなかったというのが本音なのかもしれない。

3部のアイアンズが放出を決めた際、既に彼女を受け入れようとするアメリカのクラブは存在しなかった。彼女の代理人であるLCCはアメリカのみならず南アメリカや南米、欧州なども視野に入れて受け入れ先を探したが海外、ついでに日本でも目に見えた結果を残していない彼女を喜んで受け入れるクラブは存在していなかった。


そして今恥を忍んで帰ってきた日本ですらプレーを受け入れてもらえない。
何が間違っていたのだろう



ファイルには英語、そして下手くそではあるが必死に書かれた日本語の訳でちとせだけのために作られた筋力アップトレーニングメニュー。
初めての移籍先、NYストレンジスのフィジカルトレーナーであるマイケル・ハリスが作ったものだ。

マイケルはちとせがアメリカで戦うためには当たり負けしない強烈なフィジカルが必要不可欠だと考えていた。ちとせもマイケルの言葉を信じてトレーニングを続けていた。
だがそれが実りを見せる前にチームを解雇。既に男女の仲になっていたマイケルとも移籍に伴い疎遠になり、恋仲も自然的に消滅。移籍先のチームでは「転がり屋」となってしまったちとせはフィジカルを鍛えるよりもどれだけ審判に強烈な印象を与えるファウルの貰い方を考えるほうが優先されてしまった。


ちとせはSCMからの移籍も視野に入れて部屋の整理を始めたところ、荷物の奥に残っていたこのファイルを見つけ、昔を思い出そうという程度の考えでトレーニングルームに来た。


メニューを見て、ベンチプレスを試しにやってみた。
重い。
数回で息が上がり、持ち上げられなくなる。
これにはちとせも驚愕した。
メニューを見ながら他のトレーニングもやってみる。
どれも数回が限度。


衰えていた。
いや、正確にはNYストレンジスで鍛えていた頃ではなく、SCMから移籍を決意していた頃まで戻っていたというのが正しいか。

3年間、アメリカで何をやっていた?
何を日本に持ち帰った?

「…う、うう……うう…」
気がつけば涙が溢れていた。嗚咽していた。
声を押し殺していたのは最初だけで、次第に声を出して泣いていた。
後悔が体を駆け巡る。体が引きちぎれそうに感じる。

ウチは、なにもやっていない
ウチは、何も持ち帰っていない

何分間泣いていただろうか?下を向いて涙を流していたからか、トレーニングルームに入ってきた存在にも気がついていなかった。
その彼女は音を立てないようにそっと彼女の座るベンチの端に座った。そして傍らに捨ててあるように散らばるファイルの紙を手に取った。



「これ、いいわね」


その声でちとせは我にかえりばっと顔を上げた。
彼女の隣には着物姿の松原聖監督がニヤニヤと笑いながらちとせに向かってウインクをした。


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【2011/09/08 20:39 】 | Others League | 有り難いご意見(0) | トラックバック(0)
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