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【2017/05/23 02:24 】 |
氷の女神の宣告


イタリア女子セリエAは第32節終了。
首位のインテルはサンプドリアに3-0で順当に勝利。2年連続スクデットに向けて磐石の態勢を築きつつある。
勝ち点差2で追うローマはホームでレッジーナとの1戦。ラツィオ戦でカミュ・ファルコーニが負傷し大幅な戦力ダウンが懸念されたがエース清水が奮起し2得点の活躍。2-0で勝利しこちらも追いすがる。ラツィオ、ミランと勝利し上位4チームの順位は変わらず。
さて残り2節となる2009-2010シーズン。注目は次節ジュゼッペ・メアッツァ(サン・シーロ)にて行われる首位インテルと2位ローマの直接対決。両チームとも最終節は降格の決まっているバーリ、シエナと戦う事もあり実質この試合でスクデットが決まるといっても過言ではない。
勝ち点差が2という事もありインテルは勝つか引き分け、そしてローマは勝つしかない。
試合は次の日曜日、19:00~より。
世界中が注目するこの試合、勝利の女神はどちらに微笑むのか?






カミュ・ファルコーニの怪我は幸いにも骨にまでは到達していなかった。
だが診断結果は重症捻挫―全治1ヶ月―
今シーズンは絶望といってもよかった。


試合後の月曜日、オフの日。
清水代歩はローマのスペイン広場に足を向けていた。
季節は進んでもう春まっさかり。少し肌寒い今日、代歩は薄手のスプリングコートを羽織って夕方の街を歩く。
夕食の買出しをする人たちで街はいつもの時間よりも騒がしく感じる。
左腕にミサンガやらブレスレットやらジャラジャラ巻きつける中ボーイフレンドからのプレゼントであるカルチェの腕時計を見やり、待ち合わせ時間ちょうどである事を確認して広場に足を踏み入れる。そこには栗色のジャケットにジーンズというラフないでたちの森下茜が既に待っていた。

「よ、待ったか」
「ううん、時間ぴったり」

短い言葉を交わすふたり。代歩は待ち合わせの遅刻常習者だったが今日のところは遅れなかった。

「じゃ、こっち」
「ああ、」

ふたりは肩を並べて歩き出す。
イタリアの町の喧騒に日本人ふたりというのは少し目立つ。道中目ざとい住人に発見され、サイン攻めにあったりもしながら目的のバーに到着した。


森下茜はラツィオ戦中エルザ・ラ・コンティと小競り合いを起こしサッカー協会から注意を受けた。
後日茜は協会を通しエルザに公式に謝罪をしていた。ラツィオ側も状況を鑑みてそれ以上の意義を申し立てることはせず、この件は表面上円満に解決したといっていい。

あのプレー

確かに激しいチャージではあるのだがビデオを見る限り、エルザに故意性を感じ取ることは出来ない。
だが、相手は「悪魔の聖職者」エルザである。
2年前にラツィオに加入してから今まで、彼女の毒牙でシーズンを棒に振ったり、選手生命を絶たれた選手は5人以上。だがそれら全てに故意性を感じることは無く、カードすら稀だった。
茜は前年エルザとコンビを組んで中盤底を守っていた。

だから知っていた。

バチカン国の聖職者であるエルザの本当の顔を。
だからあれだけ激高していた。エルザのあの所業に、知っていながら防げなかった事に激高していた。



バーの店内は今までの街の喧騒とはうって変わって静かだった。
まだ時間が早いためか店内には誰もおらず、髪の長い女性バーテンダーがひとり、カウンターの後ろでグラスを磨いていた。

「何か飲む?」
「ああ、そうだな」

カウンター席に着いたふたりはそのバーテンダーを見上げる。
代歩がバーボン、茜はカクテルを注文する。バーテンダーの女性はこくりと頷くとあっという間に二人の前にグラスを置いた。

こうして茜と飲むのはいつ以来か―
代歩はふとそんな事を考えていた。
元々あまりお酒を飲まない茜だったので練習以外で会うのは大抵昼間であり、カフェめぐりが主。飲む時は大抵代歩からの誘いであり、またこのようなバーで飲む事よりももう少し騒然とした大衆酒場を代歩は好んでいた。
だから珍しかったのだ。
茜が代歩を誘ってお酒を飲むというのが。


「…そろそろ、かな」
カウンターでちびちびグラスを傾けていた茜が左腕の腕時計を見てそう呟いた。
その言葉に反応するように店の入り口の扉がゆっくり開かれる。
入ってきたのは女性。黒いコートに黒いパンツ。全身を黒で覆った金髪の女性はかけていたサングラスを外す。
代歩は目を見張った。

インテルの氷の女神、世界一の司令塔。
ナスターシャ・シルベストリがそこにいた。




「待ったかしら?」
ナスターシャは茜の隣に座り、そう言って微笑んだ。氷の女神と言われていたがその微笑みは暖かく、冷たさは感じられない。
「ううん、時間ぴったり。さすがナーシャね」

元々茜とナスターシャはBucchiiを通じて親交があった。
チームは違えどオフシーズンなど茜はナスターシャと旅行に行ったりと随分深く親交を深めていた。

ナスターシャはちらりと茜のグラスを見て、バーテンダーに茜と同じものを注文した。
目の前に置かれたグラスを持ち、口をつけてからナスターシャはまた可愛らしく微笑んだ。




「カミュの具合はどうなの?」
最初、ナスターシャはそう切り出した。
本来試合相手となる相手に選手の負傷情報を伝えるのはどうかとも思うのだが、ナスターシャはカミュとアズーリでの付き合いも長い。心配するのは当然という事もあり茜は包み隠さずに全てを言った。話を聞きながらナスターシャは時折悲しそうな表情を見せる。

「そう……」
「うん…」


「正直に言うわ、アカネ」
不意にナスターシャが口を開いた。茜と代歩は顔を上げ、ナスターシャに視線を向けた。

「私、あなたたちローマとの試合がとても楽しみだった。あなたとカミュ、そしてそちらのカミカゼアタッカンテとの連携は見るたびに熟成されていて、まるで年月を経た上質なワインのように感じられていたのよ」

そこでナスターシャは一旦口を閉じ、グラスのお酒に口をつけた。

「だから少し残念だったの。最高のあなたたちと試合が出来ないってことが」


それは、稀代のファンタジスタであるカミュ・ファルコーニが負傷で戦線離脱したことをさしている事はふたりにもよくわかった。

世界一の司令塔であるナスターシャ・シルベストリはそれだけローマのことを評価していたのだ。
氷の女神とか、とかく冷たい印象で語られる彼女だったが、勝負事での熱は誰よりも熱かった。



「まだ、わからないよ」
しばらくの沈黙の後、グラスの酒を飲みきった茜がそう呟く。
樫の木のカウンターに空のグラスを置く。その乾いた音が店の中いっぱいに響き渡った。
茜はナスターシャに向き直った。


「まだ試合は始まっていないんだよ、ナーシャ」
後ろから代歩が茜の肩に手を置いた。
「ああ、コイツの言うとおりだ。まだ試合は始まってもいない。最高のあたしたちってのを見せて、そして勝ってやるさ」
茜の肩口から代歩がそう言い放つ。振り返った茜は代歩と視線を交わして微笑んだ。
ナスターシャはふたりの様子を呆然と眺めていたが、すぐに軽く首を振って息を吐いて微笑んだ。
そしてグラスの残りをくいとあおってから立ち上がる。鞄を探って飲み代の紙幣をカウンターに置いた。


「そう、わかったわ。それじゃ髪の毛の先ほども油断せず、本気であなたたちを叩き潰してあげるわ」
「うん、そうしてもらわないと困る」

ナスターシャは右目を瞑ってウインク。そして右手を振って店の出入り口に向かう。茜と代歩は椅子から立ち上がって彼女を見送る。
ナスターシャは店の扉に手をかけてから、思い直したようにふたりに振り返った。


「そうそう、ひとつ言い忘れた事があったわ」
ナスターシャが金色の髪の毛をかきあげる。

「アカネ、今のあなたじゃ私には勝てない。それは理解してるわよね?」

言い放つ言葉に茜は硬い表情のまま。ただナスターシャを見つめている。



「もうひとりのあなたに会えることを、楽しみにしてるわ」



そしてナスターシャはもう一度手を振ってから店の扉を開けた。外の喧騒の声が店の中に流れ込む。
扉が閉まったとき、ナスターシャの姿は外に消えていた。

不意に茜が代歩の右手を握った。
驚いて茜に顔を向ける。その横顔は何か思いつめたような表情。
握った腕から体温と、そして細かい震えが感じられた。代歩はその手を強く握り締めた。



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【2011/10/24 17:16 】 | LEGA-CALCIO 2009-2010 | 有り難いご意見(0) | トラックバック(0)
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