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【2017/07/25 09:28 】 |
エミとカミュ


月曜日、茜と代歩がナスターシャと会見しているその日。
別の場所でも試合に向けた動きがはじまっていた。







その日橘恵美はオフにも関わらずクラブハウスに赴き、スタッフミーティングに参加していた。
日曜日の試合に向け、選手たちのスケジュール管理や移動手段、警備体制など細かな部分の打ち合わせを行うためだった。

この試合、スクデットの行方を決める超大目玉となる試合に向け両チームが懸念しているのはひとえに「選手の安全」そのもの。
ローマのサポーターであるロマニスタがチームの勝利のためにインテルの選手に何かを起こさないとも限らず、逆にネラッズーリを愛するインテリスタがローマの選手に対し危害を加えないとも限らない。
通常アウェー開催の試合の場合、選手およびスタッフ陣は安全の為に前日ホテル入りをし、警備体制の下に管理される。今回は更なる警備体制の拡充に加え、選手自身の移動管理についても細かく打ち合わされた。


すっかり日の落ちた街。
恵美は慣れない会議の連続に心身共々疲労を感じながら自宅であるアパートメントへの道を進む。と、自宅前の玄関に座り込む人影を発見。
あまりに見慣れたその姿に恵美はひとつため息を吐くとにこやかな微笑みを作ってその影に歩み寄る。

「どうしたのかしら、カミュ」

恵美が声を掛けるとしゃがみこんで顔を膝の間にうずめていたカミュ・ファルコーニがその顔を上げた。
ひどく疲れきった表情だった。




「紅茶でいい?」
恵美はキッチンでよく訪れるカミュのためだけに揃えた紅茶用のカップとポットを用意する。イタリアに来て数年たつ恵美は今でも日本茶を欠かさないためこの紅茶セットはほぼカミュ専用となっている。

カミュは恵美に向けて軽く頷くと両足を投げ出して座布団に座った。傍らには松葉杖、右足はがっちりとテーピングされた患部。恵美はそれを見て一瞬だけ顔をしかめた。


あの負傷から1週間。カミュはクラブハウスに姿を見せてはいない。
というより見せられても困るのだ。今はリハビリなどする時期でもないし、シーズン絶望となれば尚更治療に専念してもらいたいもの。本来こうやって出歩くのでさえ遠慮してもらいたいと恵美は思っていた。

「はい、どうぞ」
少し濃い目、砂糖とミルクをたっぷり入れた紅茶をカミュの目の前に置く。カミュはひとつ頷いてからカップを手に取りゆったりとした動作で口をつける。恵美は別に入れた日本茶を両手で持ってくいとひと飲み。




……………………



無言のときがしばらく続く。
明らかにカミュの様子がおかしい。恵美は真剣な表情で紅茶を飲んでいるカミュを見据える。
いつもであればまず口を開くのは彼女であり、聞き役に徹しつつ意見を言うのが恵美とふたりの会話の中での役割分担というのは決まっていた。それがふたりのコミュニケーションの方法であったはず。
だがそのカミュが何も言わない。いや、表情から察するに何か言いたい事があるのだが言えないという感じか?
仕方なく恵美は先に切り出した。


「それで、こんな遅くに一体どうしたの?家の方が心配するでしょ?」

カミュが下を向く。しばらくその体勢でじっとしていたが不意に顔を上げた。その表情は今にも泣き出しそうだった。
そして右足を気にしながらも両膝を床につき、両手も床についた。いわゆる「四つんばい」の格好で恵美に正対。その頭を下げ、床につけた。
「エミ、お願い」



土下座
不意に行われた日本人特有のその土下座をイタリア人であるカミュ・ファルコーニが披露。
完全に不意を突かれた恵美は狼狽しながら視線を左右に泳がせる。
カミュは更に続けて言葉を紡いだ。


「頼む、アタシの足を治してくれ」















カミュは試合後の診察で「重症捻挫」全治一ヶ月と診断された。
捻挫とは文字通り関節を「捻る、挫く」ことをいい、骨と骨とを繋ぐ関節周辺部位の損傷のことをいう。多くの場合損傷に連動して患部に痛みや腫脹、熱感等の炎症を引き起こす。
それが「重症」なのだから普通に考えて1週間やそこらで完治するはずはない。しっかりと治療して「捻挫ぐせ」を起こさないために今は過度の運動は控えるのが当然である。

恵美はそのような事を淡々とした口調で諭す。だがカミュは大きく首を振った。

「だめなんだよ。次のインテル戦までに治らないと試合に出られない」
「だから、もうインテル戦は無理なのよ。諦めて」
「諦められるわけないじゃんかっ!!」

カミュが叫んだ。恵美はびくりと体を震わせた。


「アタシはローマの一員だ。それなのにスクデットのかかる試合を傍観なんか、できる訳ないじゃないか…」



ああ、カミュは変わった。
恵美は素直にそう感じた。
少し前のカミュ・ファルコーニからは想像もできない言葉だった。

それでも、
無理な相談なのは変わらない。
恵美はまた、ため息を吐いた



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【2011/10/28 19:17 】 | LEGA-CALCIO 2009-2010 | 有り難いご意見(0) | トラックバック(0)
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