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【2017/10/23 13:27 】 |
あの日のときのような


「あ、もしもし宮藤さん。ごめんねこんばんはー。うんうん見たよドイツカップ。試合中だったから録画で申し訳ないけど。……うんうんそうそう、頼んだ分のチケット送ってあるんで絶対観に来てね。………もちろん坂本監督もどうぞって、旅費までは出せなくて申し訳ないけどね。………うん、頑張るよ……」






インテル戦4日前の練習終了後のロッカールーム。
茜は携帯電話を片手に楽しそうに談笑中。恐らく相手はドイツビーレフェルトの豆タヌキ、宮藤芳佳であろう。
既に着替えを終えた代歩は壁に背中を預けながらその様子を遠目に見ている。

あのナスターシャとの会見から一夜が開け、茜は元気に練習に励んでいる。
というか、元気すぎるほどだ。

茜は誰にもそうと言った事はないが、ナスターシャ・シルベストリを目標にしている。
ナスターシャのような司令塔になりたいのか?
それは違うような気がする。

茜にとってナスターシャは気の置けない友人のひとりであることは間違いがない。
代歩と茜のような関係なのか?
それも少し違うような気がする。

練習中は非常に明るく選手たちを鼓舞する場面も多く見られたが、それ以外の部分―例えば取材などは全てシャットダウン。
ローマの方針という事もあるが、それにしても記者たちに対し笑顔ひとつ見せないのは快活な彼女にとって非常に珍しい事だ。





そろそろ全員の着替えも終わろうかという時、不意にロッカールームの扉が開いた。
中に入ってきたのは日本人。
小さな体に大きなリュックを背負い、胸を張ってキョロキョロと周りを見渡すその仕草はまるで猫のようだ。
程なく茜と代歩を見つけるとその表情が笑顔になった。

「おっすー茜に代歩ー」
その少女、神谷菜由は同じ日本人である茜と代歩に向けて小さな手を大きく振った。



クラブハウスロビーで茜、代歩、菜由で丸テーブルの周りに座る。
その間も茜は携帯電話で誰かと話しているようだ。

「今度は誰?」
「うん、咲野の明日香ちゃん。観に来てくれるって」

どうやら茜はそこらじゅうの知り合いに連絡を取って試合観戦をお願いしているようだ。
笑顔でそう答える茜の顔を、菜由は訝しげな表情で見つめている。


「だってさ、初めてのスクデットが獲れるかもしれない試合だよ。観てもらわないと」


茜はそう言うと菜由と代歩をそっちのけにしてまた携帯電話を弄り始めていた。菜由の表情はいよいよ険しくなり、不意に代歩の手を握った。


「ちょっと、代歩」
菜由は代歩の手を掴んで強引に立たせると部屋の隅に連れて行く。その間も茜は電話をしていて二人の動きに気がついているのかいないのかといった状態。
「急にどうしたんだよ」
ぐいぐいと引っ張られた代歩はあからさまに不審顔をして菜由を見据える。菜由は茜の方に向かって顎で指し示す。

「どうなってるのよ、アレ?」
「どうって……」

アレとは勿論森下茜の事であるが、代歩にはいまいち菜由の不機嫌の原因が掴めないでいた。

「実は昨日茜と飲みに行ったらナスターシャ・シルベストリが来てさ…」
代歩は昨日あった出来事から今日に至ることまでかいつまんで菜由に説明した。菜由はしばらく黙ったまま、時折数度頷きながら聞いていたが、代歩の話が終わるとまた手を握ってきた。

「代歩、どうやら茜は相当プレッシャー抱えているみたい」
「そうなのか?」

明るくて練習中も率先して声を出している。動きもいつもの練習よりも良いし、それがプレッシャーによるものとはにわかに信じがたい。
だが菜由は首を振り、代歩の手を握る力を強めた。


「同じなのよ」
「同じ?」

代歩の鸚鵡返しに菜由は真剣な表情で頷く。

「あの時と、同じ。覚えてないの代歩?」
「あの時……ってまさかっ!」


「そうよ。あのミラン対ラツィオの試合前と同じ様子なのよ、今の茜は」

あの時
そう、茜がイタリアに渡った最初の年のリーグ最終戦。
ラツィオは主力メンバー9人が負傷でシーズン半ばでリタイヤ。ほぼ控えと緊急でプリマの選手を登録して急場を凌いでいたが、当然そんなメンバーで勝てるわけもない。
ずるずる負けて一気に降格ラインギリギリまで落ち込んでいたあのとき。
最終戦はミランとの1戦であり、そこで茜は常人を遥かに超える動きでピッチを駆け回り勝利に貢献。

そしてそのあと……


菜由は握った手に更に力を込める。


「もうあんなことは嫌よ。代歩、あんたに頼むのは筋違いかもしれないけど」

そこでい一旦言葉を切る。


「茜をよく見てあげて。助けてあげて」

あのときの事を思い出しているのだろうか、菜由の瞳にはじんわりと涙が溜まっていた。
その心からの頼みを代歩は断れるはずもなかった。
いや、断るわけはなかった。



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【2011/11/10 22:55 】 | LEGA-CALCIO 2009-2010 | 有り難いご意見(0) | トラックバック(0)
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